浦島太郎
2016.03.31


アメリカの軽飛行機には30年落ちや40年落ちなどとても古い物が少なく無い。古い機体には何度も転売されている物があり、転売されても登録ナンバーは変わらないので、クロスカントリーで出掛けた先で「昔この機体に乗った事がある」と言われる事が有る。このブルーのストライプに金色の羽ばたく鷲のマークの塗装には見覚えがあった。私がパイロット免許の訓練をしたサンディエゴのモンゴメリーフィールドにアメリカンフライヤーという大手のパイロットスクールがあり、当時この塗装のセスナがエプロンにずらっと並んでいて、いかにもスタンダードの高そうなスクールの雰囲気を醸し出していた。同じカラーリングだがスクール名が無いので似ているな程度にしか思っていなかった。

先日10年ぶりにモンゴメリーフィールドにこの機体で降り立った。初めトランジェント(空港事務所が管理する一時立寄の機体が止める駐機場)に停めてターミナルのメキシカンレストランで食事をしようと思ったが、時間を節約するためGIBBSに移動して給油している間に隣のカフェでランチをする事にした。GIBBSとは駐機場や給油やフライングクラブのオフィスなどのサービスがあるFBOの名前で、車で言うドライブインのようなもの。私はサンディエゴに住んでいた頃にこのGIBBSに屯していたフリーランスのインストラクターに訓練をしてもらいパイロット免許を取った。

私が飛行機から降りると係りの男性が近寄って来て「この機体を知っている」と言った。金色の羽ばたく鷲のマークの話しになり「これはアメリカンフライヤーので、ターミナルビルの近くのスクールのだ、俺がここでトレーニングしていた頃に見た事がある」と言うと「それは随分昔、10年くらい前だろ。アメリカンフライヤーはもう無いよ」と言われた。彼はアメリカンフライヤーで訓練していたらしく、スクールが閉鎖された後この私が乗って来た機体をフェリーしたとの事。こいつは今何処に有るんだ?と言うのでサンノゼのリードヒルビューだと教えてあげた。その後暫く彼とモンゴメリーフィールドの昔話に花を咲かせた。当時GIBBSには5〜6のフライングクラブが事務所を構えていたが今はプラスワン一つしか無い。隣りのモールにあったカフェもメキシカンの店になっていた。そんなすっかり変わったGIBBSで昔を知る人と出会い、懐かしい話をしながら自分がここを根城にしていたのはもう昔の事なのだと思い知らされた。

ここで免許を取ったのが17年前、ここで最後に飛んだのがもう10年前。建物は同じだが中身は昔と違うGIBBSに戻った私はまるで浦島太郎だった。
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