旅客運輸におけるORM
2016.01.18
どんな乗り物でも操縦する時は無意識に五感を使っています。昔バイクに乗っていた頃はメーターを見ずにエンジン音や景色の流れでアクセルやブレーキを操作する事もありました。渋滞している車線の隣の車線を走るとき、急な車線変更をする車や人やバイクが飛び出して来ないか心配でスピードを落とします。このときメーターを見ずに景色の流れで安心するスピードを感じて調整しています。人は車の運転中無意識に景色の流れを感じてスピードを調整しています。

物が動くとその重さによって慣性の力が変わります。軽飛行機は操縦桿を動かせば簡単に行きたい方向に進む事ができますが、シミュレータで大型旅客機を操縦すると操縦桿を動かしてもそのように動き出すまでに時間がかかります。乗り物が重くなればなるほどそのタイムラグは大きくなります。

先日碓氷峠で起きたバス事故はこの二つの要因が関係していると思います。運転とは五感で得た情報を基に正しい操作を判断し手足や指に伝えて動かす事。運転は出来るだけ多く出来るだけ頻繁にすると上手になります。逆に経験が少ないと上手くなりません。運転を積み重ねれば頭の中に景色の流れや慣性の起き方の経験値が増え、五感からの情報を正しい操作に結びつける判断に必要なケースが増えます。事故を起こしたドライバーは12メートルのバスの運転は4回目だったそうです。最初の2回は同僚による技量検査及び習得だったそうなので、おそらく峠道など走っていないでしょう。3回目は高速道路など簡単な道ばかりだったのかも知れません。しかし、4回目に経験した事の無い状況が発生してしまった。

現場はくねくねと曲がる長い上り坂を上り切ると長い直線の下り坂になっている。街灯は無く真っ暗。真っ暗で景色は見えずスピードを調整する指標が無くいつの間にか危険な速度に達していた。最初の緩い右カーブで早すぎて左側面をガードレールにぶつけながらなんとか切り抜けた。しかし目の前にきつい左カーブが見えハンドルを左に切った。ブレーキを掛けたが遠心力で左車輪は接地しておらず右外側の車輪のみしかトラクションが無い。12メートルの大型バスの慣性は大きく速度も方向も変わらないままガードレールを飛び越え谷に転落。きっとこうだったのではないかと推測します。

もし出発前にORM(Operational Risk Management)シートを書いていたら、はたしてこの状況を予測として書き込めただろうか?少なくとも今後は書けるはず。そして対策として経験が少ない場合は必ず高速道路を通るなどのコントロールを入れる事で似た様な事故の回避は可能になるはず。リスクコントロール以前に旅行会社も運行会社もルール遵守のモラルが欠如していたようですので、そこは取り締まりで改善するしかないでしょう。亡くなられた学生たちのご冥福と彼らの死が無駄にならず将来の安全向上に役立つ事を祈ってます。
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